現代ニッポンの「家族の肖像」




武甲山殺人事件




◆著 者:丸山 友岐子

◆発行年月日:1994/11
◆サイズ:四六判・上製
◆ページ数:320ページ
◆ISBN:978-4-87196-003-8
◆定価:2000円+税


■内容紹介■

壊れゆく秩父の名峰・武甲山、
そして壊れゆく大都市近郊の一家族。
豊かさと引き換えに失ったものは取り返しのつかない……

「自然と人間の空洞」を描いた異色長編推理小説!



■目次■
第一章  闇がこわい
 トントン、とノックしたあと、絵美がソーッとノブを回して、細目にドアを
 あけた。なかは暗くて何も見えない。闇。闇がこわい……
第二章  変死
 変死というのは、いわば、社会的な死だとわたしは思っています。変死に
 は、社会が介入するということです。社会、つまり……
第三章  黒い怒濤
 制服の集団の黒い怒濤は、不意打ちの衝撃だった。この怒濤に木っ端のよう
 に翻弄され、家ごと押しつぶされるという恐怖が、彼をおびえさせた……
第四章  弔い
 能率よく生まれ、能率のよい早期教育ベルトコンベアに乗り、能率よく教育
 期間を終えたら、能率よく働き、能率よく死ぬ。能率よく灰にしてくれるこ
 とだけは確かやな。能率大国ニッポン……
第五章  被疑者
 やっていない行為を「やった」と証明するより、やっていないことを「やっ
 ていない」と証明することのほうがむずかしいのではなかろうか……
第六章  家族会議
 四季とりどりの花を咲かせた小さな庭。勤労の意欲をかきたて、充足を与え
 てくれたマイホームが、こんなにもろく崩壊するとは……
第七章  わたしはだぁれ?
 遠い追憶が『あの子はだぁれ、だれでしょネ/なんなんなつめの花の下/
 お人形さんと遊んでる/かわいいみよちゃんじゃないでしょか』という歌詞
 メロディーを甦らせた。
第八章  ジグソーパズル
 ジグソーパズルの細片を小分けしたビニール袋を次々と破って、細片の山を
 つくった。手ですくいあげては、落としてかき混ぜる。
第九章  疑わしきは……
 知彦は深く吐息をもらした。山肌を無残に削り取られ、著しく山容を変えた
 武甲山のイメージと、お先まっ暗な自分の運命がだぶって見えた。
第十章  遺書
 なにか、この手で確かなものを握りしめたかったと、うずくように思う。
 “しあわせ”なんて不確かなものじゃなく。でも、確かなものとはなんなの
 だろう。わからない。
第十一章 もっともっと! もっとほしい!
 あの山は、いうたら、戦後の日本の象徴みたいな気がしてならんのや。
 “もっと掘れ、もっともっと”いうて掘り崩して末はどうなる。あとに残る
 のは、掘りつくされた山の残がいと、自然破壊のツケが回ってくるのは目に
 見えてる。
第十二章 殺意
 頼りないもんやな、人間のかかわりいうのは……。そんな頼りないかかわり
 やいうことにも気がつかんと、ええ親のつもりで、外でカネさえ稼いでたら
 安心していられたんやから……。



●著者プロフィール

●丸山 友岐子(まるやま ゆきこ)
1934年、大阪府泉佐野市生まれ。東京・新宿で写植業を営む傍ら、死刑廃止運動など一貫して人権問題に取り組み続け、文筆業でも活躍。「死刑をなくす女の会」代表。主な著書は、『わが愛と性の履歴書』(社会評論社)、『はじめての愛』(かのう書房)、『超闘死刑囚伝』(社会思想社)、『女子高生コンクリート詰め殺人事件』『報道のなかの女の人権』(編著・社会評論社)、『全検証 ピンクチラシ裁判』(共著・一葉社)。